前の勤務先で体験したコロナクラスターについての記事です。
出現
2019年、中国で原因不明の肺炎発症に始まり、瞬く間に全世界に広がった「新型コロナウイルス」。
COVID-19(Coronavirus Disease 2019(2019年に発生した新型コロナウイルス感染症))とも言うやつね。
顕微鏡で見ると王冠に似ていることから、ギリシャ語で王冠を意味する「コロナ」になったらしい。
当時は、感染者、重症者、死者、自粛、密といった言葉を耳にしない日はなかった。
現在は徐々に感染者も減少してきているが、当時は日々増加する感染者にひたすら怯えていたのを覚えている。
自分の病院で感染者が出てしまうのも時間の問題と思えるほど感染者数も増え、職員や患者の健康チェック、定期的な換気など病院内でも危機管理が一層増していた。
ついに
そんなある日、それはついに現実となった。
他病棟の患者一人から陽性確認。
それ以降は患者・スタッフ共に瞬く間に増え、他病棟で確認された陽性者は次々と僕の病棟へと送り込まれて僕の病棟は一部コロナ病棟と化した。
クラスター発生。。
コロナ病棟の実際
コロナ病棟になる前から、発熱患者はハイリスク患者ということでフル装備対応をしていた。
その時は「陽性者ではない。あくまでハイリスク患者。」という気の緩みが皆少なからずあった。
しかしコロナ病棟になってから対象は紛れもない陽性者。
それまでなーなーで行なっていたPPE着脱(PPE :個人防護具 Personal Protective Equipment)も当然ながらきちんと行なう。
コロナ陽性ではない患者もいたため病棟の一角をコロナ病棟とした。
しかしどんどん増えていく陽性患者。その度にコロナ病棟ゾーンをゾーニング。
そんなことは今までなかったからみんなバタバタ。
これはどうする?あれはどうする?
コロナ病棟立ち上げで一からやり方を考えていくということで、能天気の僕は不謹慎だがこの作業は割と楽しくできた。
しかしながら、コロナ重症患者はいないものの毎回徹底したPPE着脱や、PPE着用したまま業務をするストレス、感染するかもという緊張感などにより短期間でもみんなの疲弊は著しかった。
少しずつ体制ができてきたが、やはり他病棟からの新規感染者は一向に減らず、ほぼ毎日コロナ病棟へ転棟してくる。
病院全体気を引き締めて取り組んでもこんなに感染してしまう新型コロナウイルス。
感染力の猛威を改めて実感していた頃、、
良からぬものを目にする。
用事があって事務職員がコロナ病棟陽性者ゾーンに来た際、PPE装着せずに入ってきた。
ここからはPPE装着ゾーンであることを説明したが、「いいのいいの。」と。
うちらがどんだけ気張って毎回毎回PPE着脱しているか、どんどん増えるコロナ陽性患者の対応をしている我々の気なんて知らねーんだな。
さらに追い討ちをかけるように、他病棟でのこんな話も耳にした。
「発熱があるためPPE対応としている患者の部屋に無防備で平然と入って対応しているスタッフがいる。」
なるほど。だからか。そいつが媒介者か。そりゃ一向に減らないわけだ。
それを聞いた看護師がすぐ上司に言ったそうだが。。
自分はかからないから大丈夫とか、ちょっとの対応だけだからとか、陽性者が出たら転棟させればいいとか。
どう思って装着しなかったかはわからないが、
自分らだけ真面目にやってるということを流石にバカらしく思った。
また、他病棟のスタッフが我々コロナ病棟担当のスタッフと更衣室ですれ違う時にあからさまに避けられたりすることもあったらしい。
そんなこともあり、コロナ病棟看護師のストレスは日に日に増していった。
仕事上でのストレスの他、家に帰れないことによるストレスがみんな非常に強いことがわかった。
僕は元々一人暮らしだから変わらなかったが、家庭持ちの看護師はコロナ病棟対応となってから寮やホテル暮らしとなっており、家から離れて過ごすことのストレスは半端なかったようだ。
それに加えて、残された家族もその人がいない分の負担があったに違いない。
仕事が終わって帰ると一人。
それより、仕事に来てしまえば仕事上のストレスもあるが、それ以上にスタッフと会話をすることで寂しさを紛らわせることができているのかなと感じた。
PPEを怠った事務職員や他病棟のスタッフには、医師から指摘があったようでそれ以降はなくなった。
そしてみんなの頑張りや他病棟からのヘルプもあり、徐々にコロナ病棟の患者は減っていった。
患者が減っても最後まで気を抜かずPPE着脱、患者対応をした。
そしてついにコロナ病棟患者0。クラスター収束。長いコロナ病棟業務が終わった。
最後PCRをやったがスタッフ皆陰性。
なんだかんだあって誇れる職場と思ったことはあまりなかったが、コロナ病棟スタッフが誰も感染しなかったことに関しては少しばかり誇りに思った。
課題
さて当院のクラスター収束して一段落。
しかしまだ世の新規感染者は減っていない。
またクラスター、、ってこともなくはない。
そんな時のためにと今回のクラスター、コロナ病棟で学んだことを踏まえて、長や感染委員を中心にコロナ患者発生時のマニュアルを作ったようだ。
ここまではいい。
数ヶ月後、、当院に来ている外部委託スタッフがコロナに感染し、感染発覚前に接触した患者が濃厚接触者扱いとなった。
そう、まだ世のコロナは収束していない。こんなことがあってもおかしくはない。
以前作られたマニュアルを見ていた矢先、、、
こーして、あーしてと、マニュアルには書いていない指示が上から飛んでくる。
おい。マニュアルはどうした。
クラスター収束してから作ってただろ?
陽性者ではないが濃厚接触者の対応も書いてあったろ。
そんなものガン無視で、今回の対応に関する指示がある。
結局今回はその指示の通りに動くことになった。
時間と労力をかけて作ったマニュアルが必要な時にちゃんと運用されないのであれば全く意味がない。
いざという時に簡単に捻じ曲げられてしまうものは果たしてマニュアルと呼べるのか。
確かに微調整は必要だ。マニュアルを元にやったけどここはこのやり方の方がいい。
とか改めて気付くところがあるから。
でも根本から変えるのは違うと思う。根本から対応が違うということは作られたマニュアルが薄っぺらかったということだ。
いざという時、「マニュアル通りに対応」と上から一言指示が出るくらいの、内容が詳細に網羅されたものでなければマニュアルとは言えない。
もし上司が不在の時でもマニュアル参照しながらみんなが同じ行動を取れるものでなければいけない。
まとめ
今回コロナ病棟を経験していくつか学びがあった。
やっぱり一人一人の意識が大切。
意識は数値化できないから難しいところではあるんだが、病院で働いている以上責任を持って行動するべき。
コロナにかかることが悪いとは言っていない。
どれだけ注意していてもコロナにかかってしまうことはあるからそれはしょうがない。
それまでの過程、それに対する意識が大切。
病院内には高齢患者がいる。高齢者は重症化するリスクが高いんだから、病院で働くのであればそのリスクを考慮して行動しなければいけない。
あとは、百聞一見にしかず。
僕らコロナ病棟の中身を把握できるのはそこで一緒に働いていたスタッフしかいない。
みんなどれだけストレスがあるか疲労があるか、そういったことは聞いただけでは把握できるはずがない。
現場の辛さを知らないから無責任な行動ができてしまう。
今回はマイナスから得た学びだが、聞いただけじゃわからない、実際にやってみないとわからないものっていっぱいあると思うから、色んなことに挑戦してみようかな。
それからマニュアル。
世の中約10年スパンで大きな感染に脅かされる。
今回のマニュアルがまるっきり次に活かせるわけではないが、感染対応ということで同じ部分もいくつかあると思う。
もちろんコロナも世の中まだ完全に収束しているわけではないからまだリスクはある。
病院であれば他にもいくつものマニュアルが存在するはず。
その各マニュアルが、理解しやすくすぐ行動できるものでなければいけない。
コロナ病棟、多少リスクはあったものの無事終了。
こういった経験は人生で一度しかないかもしれない。
終わってみればとてもいい経験だった。
他の病院でもコロナ病棟経験した方いると思う。病院によって状況が違うところも多いと思うがお疲れ様でした。
まだもう少しの間、感染のリスクを伴う期間が続くが頑張っていきましょう。
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